「GRIMM(グリステ)」の感想(ネタバレあり)
(昨今の状況を鑑み、配信の感想です)
↓ 最初にちょっとした説明 ↓
【キカクのタネとは】
演出家の「この俳優の新たな一面を引き出したい」、
俳優の「こんな役を演じてみたかった」、
また視聴者の「2人のこんな役を見てみたい」など外見や性格、
物語の舞台など様々なアイデアを元にオンライン企画会議実施。
全員で力を合わせてゼロから魅力的なキャラクターを創造していきます。
大切に育った「キカクのタネ」はやがて、グッズ、ストーリー、朗読劇、映像作品や舞台など、未来のエンターテイメントへと繋がっていきます。
最初の芽は、演出家・吉谷光太郎、俳優・高崎翔太、俳優・橋本祥平がタッグ組んで、大事な童話を守るために謎の悪魔に立ち向かうグリム兄弟(ヤーコプ・グリムとヴィルヘルム・グリム)というキャラクターを作り上げ、今年8月中旬に舞台「GRIMM」と題し、六行会ホールにて計8公演を上演いたします。
※公式サイトより
最初は緊急事態宣言下だったので、zoomを使ってリモート企画会議が行われ、それをYouTubeで生配信しながら、ファンからのコメントを拾いつつ、企画案をブラッシュアップしていきました。そして放送の最後に、必ずファンに向けた宿題も課され、3人とファンと一緒に作り上げていった作品です。 YouTubeでコメントされる方々は高崎さんと橋本さんのファンの方々なので、3人がコメントを拾って、リアルタイムで作品を作っていく過程を見れたのもワクワクしました。
また、吉谷さんが台本を作ってきて、その場で二人に読んでもらい「こっちの配役の方がいいな」とか「そういうんじゃなくてさ」とか公開ダメ出ししていく姿や、稽古場での内容以上のものを配信で演じることが出来て急遽「それでいこう!」みたいな風に決まっていくのとかをリアルタイムで見れました。
めちゃくちゃ生々しい現場を感じられる貴重な番組。キカクのタネめっちゃいい企画!!
https://www.youtube.com/watch?v=GdhLd7D0H18
【俳優さんについて】
橋本さんは封神演義で生のお芝居を見た事があったけど、高崎さんは配信でしか見たことがありませんでした。なので、正直お二人のお人柄等についてはほぼ知らない状態。
けれど「キカクのタネ」全7回を見終わって感じたのが
『あ、これ、吉谷さんは高崎さんと橋本さんの二人芝居を作ろうとした時点で、脳内でなんとなく二人に求める姿が見えてたんじゃないか?』
キカクのタネを見て高崎さんに受けた印象は『流れや空気を読めて、頭の回転が速い子』です。
発言内容が「今の自分の年齢的にこういう役柄のオファーが多いから、こういう役をやりたい」って具体的に提示したり、意見を求められた時に「物理的なのか心理的なのか」とMECEな意見を出して来たり、「マスクチャームはどうか?」って流行りのグッズ案を出して来たり、配信内で裏話的に「悩んだ祥平が『これはキカクのタネじゃない、悩みの種だ』って言ってた(笑)」って言ってヲタクを喜ばせつつ、お兄ちゃん的立場で橋本さんをケアしてくれてたり、頭の中が常に整理されてて、頭の回転もいいし、その場で求められる立ち位置に自分を置き、流行りもおさえてる方なんだなぁって印象を受けました。
吉谷さんの過去ツイートを遡ったら「高崎翔太は、現場での影響力が大きく雰囲気作りに助けられている。リーダーにもなりえるし、サポートにもムードメーカーにもなりえる。表でも裏でも様々な役割を担ってくれる(要約)」って言っていた意味がめちゃくちゃわかった!
だから今回、高崎さんが兄+その他キャラクターを全て演じたことで、様々な演技を見ることが出来たし、橋本さんが裏で苦しんでいた時に、お兄ちゃんと言う立場でサポートしてくれたんだろうな、って感じました。アドリブの入れ方が上手いのも場の空気を読めるからだし、噛んでしまったことすらもとっさに笑いに変えるアドリブ力が凄い人。
千秋楽の挨拶を見て、めちゃくちゃ感動した。そしていい事言っちゃって、照れるのめちゃかわいい。高崎翔太さん、めちゃくちゃいい役者さんですね。ファンが多いのわかる。
配信はまだ間に合います!!千秋楽だけでもいいので配信ぜひ買ってください!!(笑)
橋本さんについては、今回、企画会議でもっと内面を知ることが出来ました。
めちゃくちゃ真面目な人。
徹底的に役に向き合い、ダメ出しされて自分が考えてきたことを壊されて、それを自分の中で変えていく過程に取り組むときに、生真面目過ぎる故に苦しんでしまうタイプなんだろうなぁと感じた。
こんな人柄の役者さんが、私が人生の指針にしてるキャラクター「太公望」を演じてくれたことに感謝しかない(封ミュの話)
吉谷さんの過去ツイートで「橋本祥平は、アクセルを踏ませたくなる。感情の起伏における加速度を楽しみたいから静の芝居をさせる。稽古時もずっと勉強している姿勢」って評価されてて、千秋楽後の橋本さんの動画コメントでも「受験勉強並みに徹夜とかめちゃめちゃして、御飯と寝る時間以外はずっと台本を読んでた」って言ってました。
キカクのタネで「上手下手がわからないぐらい追い詰められてた。自分のせいで翔太君や吉谷さんに迷惑をかけちゃいけないと思ってた。永遠の闇」っておっしゃってて、だからこそ二人から「祥平は、自分で自分を傷つけるときに輝く」って言われるんだろうなぁと思った。
私は橋本さんが舞台上で、徹底的に自分で自分を追い込んで追い込んで、極限状態になったときに見せる演技、心臓が抉られるぐらいの感覚になるのでたまんないほど大好きです。
↓ ここから舞台本編 ↓
【あらすじ】
兄・ヤーコプ・グリム(演:高崎翔太)と弟・ヴィルヘルム・グリム(演:橋本祥平)は、ドイツ各地を巡って、古くから伝承してきたメルヒェン(昔話)を収集し、残酷な部分を切り落として『グリム童話集』を完成させた。やがて『グリム童話集』は優しい世界観と奇妙な展開で多くの読者を魅了し、世界中で愛される物語となった。
しかし平穏な生活を送っていたグリム兄弟の夢枕に、正体不明の悪魔が現れる。悪魔の目的は、優しく編纂された物語を残酷な話に戻すこと。そんな悪魔の計画を阻止すべく、グリム兄弟は改ざんされた童話の世界に潜り込む。
そこには彼らの想像を絶する「残酷な世界」が待ち構えていたーー。
※公式サイトより
【舞台「GRIMM」の感想】
端的に言うと『死ぬほど難解な作品!けど、今の困難な時期だからこそ見れる演出』
二人芝居だから、頭の中で『今の演技は「現在or過去」「兄の悪夢or弟の悪夢」「夢の中or現実」「兄視点or弟視点」「本当の兄or悪魔の兄」「本当の弟or悪魔の弟」「ヤーコプとヴィルヘルムorキャラクター」?』などなど、常に考えながら観劇しないとついていけないし、頭の中がめちゃくちゃ混乱した。
ここまでレベルの高い内容を、短期間で台本作って、練習して、グッズも作って、作品として形にした3人とスタッフさんが凄すぎる。
3人のコメントを見たら、えげつないほど相当きつかったことが窺い知れました。
だからこそ、その想いに報いるためにも、私はこの作品を可能な限り必死に理解して、感想を形に残したいと強く思った。
【コロナと舞台】
吉谷さんが「困難な時こそ生み出されるものがある」とおっしゃっていました。
先日、吉谷さん脚本演出の舞台「KING OF DANCE」をおこなっていたときも「公演をおこなうことが、お客様の感動をうむのではなく、危険にさらす行為だと問われるような状況。そんな逆境の中で勝っていこう」っておっしゃってた。
「GRIMM」はコロナ禍の状況で3人が困難な状況に挑戦し、そして新しい演劇の可能性を提示した作品だと思う。
zoomで始まった企画会議。稽古では常にフェイスシールド+マスクを着用し、スタッフさんも観劇者も含めて徹底的な感染防止策をとっていた。
でも舞台上の二人はフェイスシールドを外し演技をしていた。
そして演出は二人が絶対に感染しないような演出方法がとられ、常に二人は距離をとり、出来るだけ向かい合わず、片方が話すときは片方は口を閉じる。
しかも、向かい合って言い争いをしないといけないときは、アクリル板を挟んで言い合うんだけど、そのアクリル板すらも作品の中で、時に「鉄の扉」になったり「金の洋服」になったり小道具と化してた。
きっとフェイスシールドを付ける前提で演出を考えた方がやれることはたくさんあったと思うし、伝わりやすい演出が出来たと思う。それでも、フェイスシールドを外して二人が感染しないよう、不自然にならない演出にするにはどんな方法があるのか模索した結果、新しい演出方法がうまれたし、吉谷さんの「困難な時こそ生み出されるものがある」って言葉がまさしくその通りだとみてて思った。
舞台や劇場ってクラスターが発生して悪のイメージが払拭できない中で、役者さんたちも感染の危険に怯えながら、それでも演劇の灯を途絶えさせないためにはどうすればいいのかを考えさせられた舞台でした。
ってか、やっぱ吉谷さんすごいな。天才、マジ神!!
【グリム兄弟の史実】
今回グリム兄弟&グリム童話がテーマと言うことで、該当のグリム童話を読み、グリム兄弟について調べてみました。
舞台に影響がある部分のみリスト化
・伝承された話をそのまま形にしようとした兄のヤーコプと、子供たち向けに編集した弟のヴィルヘルム。
・初版は伝承された内容そのままで作成されたが評価されず、柔らかな風景描写や心理描写が増やされ、残酷な描写や性的な部分は削除されて出された作品がヒットとなる。その後、第7版まで編集された。
・元々は裕福な家庭に生まれたが、父親はヤーコプが11歳(ヴィル10歳)の時に亡くなり苦しい生活となる。母親はヤーコプが23歳(ヴィル22歳)の時に亡くなる。
・長兄がいたが生まれて3ヵ月で亡くなったので、ヤーコプが実質の長兄。
・ヤーコプは生涯独身、ヴィルヘルムは39歳の時に幼馴染と結婚し、独身のヤーコプはヴィル夫妻と共に過ごす。
・理論的で政治的な活動もするヤーコプと、体が弱く社交的な性格のヴィルヘルム。
・真逆の性格だが一時期離れていた時は、ラブレターのような手紙を送るほど仲がよかった。
【様々な伏線や気づき】
・最初と最後にある兄弟の会話
吉谷さんって大事なセリフを最初に1回言わせて、その後もう1回言わせることで『そういうことだったのか』って理解が深まったり、『あれ?そういう意味なの?』って別の意味に受け取れる手法をよく取るのね。今回もその手法がとられてた。
最初のシーンでは黒い本を持っているので悪夢の中にいる設定。
最後のシーンでは手紙を持っているので現実世界を表現している。
最後のシーンの直前に二人が「昔、俺たちが離れ離れになった時、手紙を出し合ったことがあったろう」「ほぼラブレターみたいなやつね」ってやりとりがあるので、最初と最後の違いが分かりやすかった。しかもその手紙を出し合った経験が、悪魔を退治するきっかけになるっていうのが粋な演出ですよ。
・カーテンと照明の色と時計の音
カーテンを開け閉めするタイミングで、照明が明るくなったり暗くなったりするので、朝になって悪夢から抜けたのか、夜になって悪夢の中なのかは、窓のカーテンの開け閉めでわかるようになってた。あと複数回見て気づいたんだけど、赤色の照明の時は悪魔、青色の照明の時は本物の兄弟という演出。悪魔が赤色の照明なのは、兄が「ヘンゼルとグレーテルのように悪魔を燃え盛る炎の中に突き落とす」って言ったからかな。BGMの時計の音はよく吉谷さんが使う時間軸が変わる瞬間の演出でした。
・キスしたい兄弟
最初は弟が兄にキスしたがって、兄がめちゃくちゃ嫌がるのに、最後では兄が弟にチュウをねだって、弟が嫌がるのがめちゃくちゃ可愛かった。最初に「兄さんも結構ロマンチストだもんね」って言ってたのが最後で回収されてた。しかも弟は「キス」って表現なのに、兄は「チュウ」って言い方なのがイメージと真逆でお兄ちゃん可愛いな、おい、ってなった(笑)
・本の色と冊数
配信だとわかりにくかったけど「黒」「白」「ピンク」「赤」があった。
黒:悪魔が絡んだ残酷な話、悪夢の中
白:兄弟で新たにつくる物語
ピンク:ルイーザの恋心
赤:真実の愛
特に好きなのが、「鉄のストーブ」で本の冊数が1冊→2冊→1冊になるところ!二人の関係が、繋がり→離れ→繋がる描写が冊数で表現されていた。あそこの兄弟の絡み、めちゃくちゃ可愛くて大好き!! そこからの展開がまさしく起承転結の「転」の部分で思いっきり落とされるから、一層「転」が暗くえげつなく感じた。
・前半~後半にかけて逆転していく兄弟の関係性
前半(いばら姫&怖がることを)は真面目な兄とバカで自由な弟
中盤(鉄のストーブ)は対等な関係になる
後半(歌う骨&リュック&いばら姫)は狡賢くて弟に対して非情な兄と真面目な弟
・ギャグの中に隠された大切なセリフ
最初に兄悪魔が登場するシーンで、弟とのやりとりが面白すぎて面白すぎてついついそっちに注目しがちなんですが、このシーンで悪魔が「朝になったら大変なのに」って言ってるんだよね。
兄悪魔がはけるときに、上手下手がわからなくなっちゃうのは、橋本くんが「今回の舞台稽古で追い詰められ過ぎて、どっちが上手か下手かわからなくなった」ってキカクのタネで言ったことがきっかけで増えたのかな?あくまで想像、悪魔だけに…って『期限と機嫌をかけたんだぜー(笑)』
・コネタ集
ダブルミーニングの使用は「ブス」の不細工と針で刺す擬音語、「ゲロ」の吐瀉物とカエルの擬声語。
他にも「濃厚接触」「Go To鉄のストーブキャンペーン」の時事ネタや、「zozozotown」「緑効青汁」「心のハンサム」など2人のファンならわかるコネタを織り込んでいた。
ここら辺の言葉遊びは見てて楽しい。
けど、事務所を辞めてフリーになるくだりは高崎さんと橋本さんについてなのかな?調べたけどわからなかった。
→高崎さんのファンの方から『元同じ事務所の方のことを指しているのではないか?』とコメントをいただきました。ありがとうございました(8/23追記)
・2人の演技力
今回二人芝居を初めて見ました。二人芝居って、2人の演技力が試される作品だなと思った。
大量のキャラクターを着替え等一切なしで、口調や表情や立ち振る舞いだけで表現しないといけない大変さ。だからこそ見てる側は『これは今、どのキャラなんだろう?』って常に頭をフル回転させながら観劇しなきゃいけない。
キカクのタネで高崎さんがいばら姫を演じた時より、舞台では格段に自然ないばら姫になってたし、橋本さんがババアを演じて1ターンした瞬間、王子に変わるあの豹変っぷりは役者の真骨頂を見た。橋本さんって目力が凄いね。特に狂った感じの時の目力が壮絶だった。
・三重写し構造(8/23追記)
吉谷さんがツイッターでおっしゃってた「三重写し構造」がいまいち理解しきれなくて色々と考えてみた。
~グリムの世界において~
現実:グリム兄弟の手紙
作品上の現実:グリム童話
虚構:吉谷さん編纂の物語
↑ それを観客が見る
~現実の世界において~
現実:役者二人
作品上の現実:2人が演じるキャラクター
虚構:キカクのタネ
↑ それを視聴者が見る
こういうニュアンスで合ってますか?吉谷さーん!(笑)
・最初のアナウンス
これ、吉谷さんがしゃべってない?
【疑問点】
・ルイーザは本当に存在したのか?
結構ググったんだけど、ルイーザの存在自体も、結婚相手になる予定の女性の存在すら出てこなかった。史実ではヤーコプが23歳の時に母親が亡くなっている。ルイーザが「貴方が研究に熱心なのは、昔、母親から童話を読んで貰えなかったことを引きずってるから」って言ってたけど、ヤーコプの幼少期に母親は存在しているし、父親が亡くなったのも11歳でまだ裕福な時代なので、童話も読んでくれているはず。
ルイーザが登場する直前に、弟は兄に「また夜に(悪夢の中で会おう)」って言ってるし、カーテンも閉めてる(=夜になった描写)。だからルイーザの存在は悪魔が弟に見せた悪夢の中だけに存在していて、兄の執筆スタイルが変わったことに対して、弟の不安な気持ちが生み出した幻想の存在なのかもしれない。ルイーザは最初橋本さんが演じて、途中から高崎さんが入れ替わって演じることで、実態が掴めない存在として描かれているのかな。
それか、いっそのこと吉谷さんが兄の心理描写を際立たせるために作り出した、オリジナルキャラかもしれない(笑)
・悪魔は本当に存在したのか?
最初は仮面をつけた悪魔が登場して、悪魔VS兄弟という図式だったけど、途中から仮面をつけていない兄や弟の姿のままの悪魔が登場してた。
※だから『えっ、これって兄?それとも悪魔?』ってめちゃくちゃ混乱した。
悪魔は存在せず、兄が言っていたように「お互いの小さな嫉妬や妬みが生んだ」概念的なものであって、それがお互いの夢の中に出てきたって受け取り方が正解なのかなと思った。
↓ ここからは作品ごとの意味 ↓
《いばら姫》
最初と最後にこの話を持ってくることで、兄弟の性格および関係性が変化したことがわかるようになってた。キスシーンは必要か否かのやりとりで、理論的なヤーコプの性格と、メルヘンな弟の性格が、見てる側にすぐに理解できた。かつ「ペロー版ではなかったキスの描写が弟によって足された」や「王妃が人食いで残虐なシーンが削除された」等、童話が改編されていることの説明も果たしてた。
キカクのタネの台本読みで出てたババア登場シーンも初っ端に盛り込むことで『あ、YouTubeで見たシーン!』ってテンション上がった。
元々は、王子の母親(=王妃)が王子と王女の二人の子供を食べようとする残虐なシーンがグリム童話で描かれていたけど、弟の編集で省略されたのね。それを敢えて舞台のなかで話題にしたってことは、王子の母親を悪魔に見立てて、グリム兄弟を食べよう(=殺そう)とするという設定とリンクさせているのかもしれない。
王妃が人食いシーンを足すのを弟が嫌がった時に、以下の会話がなされるの。
兄「個人的な感情は捨てろ。大切な”者”を守るためだ」
弟「いや、作品は俺たちにとって大切な”物”…」
兄「命に代わるモノなのか?」
ってやり取りがあるんだけど、音で聞くと同じ「もの」なのに、兄は弟のことを指してて、弟は作品のことを指してるボタンの掛け違えの脚本がさすが吉谷さん上手いなぁって思った。そしてこのセリフがあるから、兄は弟より先に悪魔と出会っていて、早く解決しないと大切な者(弟)を失う可能性をこの時点で知っていたということが後からわかる展開。
こういう、『あの時のあの台詞ってそういうことか!』って感じさせるのが、吉谷さんの演出が好きな理由なんだよぉ。
《怖がることを覚える為に旅に出掛けた男》
橋本さんが、いばら姫→怖がることを→鉄のストーブと、常にトップスピードでグイグイいく演技なんだけど、『怖がることを』でエセ関西弁を入れつつ、弟が比較的穏やかな性格設定だから、うまく緩急がついた気がする。本編には触れない程度に『キカクのタネ』で先に一部分を見せてくれてたから、『橋本さんが好きな高崎さんのあのキャラキター!』ってなった(笑)
癖の強いキャラをやりたい役者さんの希望を取り入れつつ、朗読劇を入れて箸休めみたいなポジションの作品なのかな。
《鉄のストーブ》
ここら辺から兄弟の関係と童話がリンクしていく気がする。
鉄のストーブに閉じ込められた王子と、親に依存して泣き虫な王女が成長する話。
鉄のストーブに閉じ込められた王子は、ルイーザのことがあっても固い考え方を曲げない兄とリンクしている。親に依存して泣き虫な王女は、兄に守られて身体が弱い弟とリンクしている。
高圧的で呪われた王子=兄が、強くなった王女=弟の言葉で呪いから解かれて、王子と王女(兄弟)が2人で協力し合い、幸せになる未来を描いてるのかなと思った。
王女が「私の言葉に耳を傾けて」って王子に言った言葉も、最初と最後に読まれる弟が兄に向けて書いた手紙と内容がリンクしてるし、「鉄のストーブより硬い愛で」ってセリフは「兄弟愛」を意味してるんじゃないかな。
カエルが王子と同じことを言ったのは、カエルは王子の家族だったってことが暗に示されてた。これは原作を読んでないとパッとわからないかも。
《歌う骨の話》
ストーブと歌う骨の間に、兄弟がお酒を飲むシーンがあるんだけど、ここで出てくる兄は悪魔。弟は悪魔と契約しているから残虐な作品を書かないといけなくて「歌う骨の話」で兄の事を酷い人物像に執筆していく。ここの照明は赤色が悪魔で、青色が本当の兄なのでわかりやすい。
弟の悪夢の中でも、さすがに自分で兄が弟を殺すシーンは書けないのに、兄は弟を殺すシーンを平気で書くことで、このシーンで出ているのは兄ではなく悪魔だということがわかる。
鉄のストーブの作品で強くなった弟なので、兄の悪魔に対して非情なまでの言葉を叩きつけ、悪魔を追い払ったうえ、土饅頭のネタを使って悪夢の中で兄に手紙を書き残してた。
この話も読み解くの結構難しかったので、ほぼ事実のみ。解釈が間違ってたらごめんなさい。
《リュックサックと帽子と角笛》
かなり大事な話。
童話では、貧しい兄弟が飢えから抜け出す為に旅に出て、兄はお金を見つけてそのまま帰るが、弟はもっといいものを見つけるために旅を進める。弟は豪華なご馳走が出てくるテーブルクロスと武器も手に入れるけど、兄に自分が弟だと信じて貰えず、最後には武器で世の中の全てを破壊するという話。
グリム兄弟も元々裕福な家庭で生まれたけど、父親が亡くなりお金に困り、兄は長男として家族を養うために研究に没頭する(史実)、その結果、お金は手に入ったけど愛した人は居なくなってしまった(舞台)とリンクしていた。
弟は病気がちで(史実)、そのことで兄から過度な心配をされ、童話の編集作業も止められ「兄の言うことを聞かない弟は必要ない」と言われた過去がある設定(舞台上の過去描写)
そしてこの童話の中で、弟は強さの象徴であるリュックと帽子と角笛を得る。強さを得たにもかかわらず、兄から「物乞いのような恰好をしているお前は俺の弟じゃない」と言われ、兄への劣等感を刺激され兄へ自分が弟であることをわかるまで150人の兵士を使って打ち据える(舞台上の悪夢の中)
弟は結婚して家庭を持っていた(史実)、魔法のテーブルクロスを広げたらご飯が出てくるのは、弟に家族がいたことを表現してるのかなと思った。たぶんこの物語は2人の悪夢で、弟から酷い仕打ちをされる兄の悪夢と、力を得たのに兄から「お前は弟じゃない」と言われる弟の悪夢。
舞台では簡略化されてたけど、実際の童話は長いので、確かに悪魔を騙して朝まで居続けさせるには最適な作品だと思った。
正直、どのグリム童話が来ても対応できるように、200話全部読み始めてたんですが、事前にやる作品を教えて貰えて助かりました。公式さんと吉谷さんありがとうございます。
【最後に】
上のコロナ云々の時にも書いたけど、本当にお疲れさまでした。こんな状況だからこそ、企画会議から色々なことに挑戦した結果うまれた作品でもあったし、普段見れない役者さんの素の部分も見れたおかげで、一層役者さんや作品のことが好きになりました。舞台をやることが否定的なこの時代に、演劇関係者がどんな覚悟でどう挑んでいくのか、そういう強い想いみたいなものも感じられて、より素晴らしい作品が出来上がったのだと思います。(千穐楽の高崎さんの言葉や、千秋楽後の橋本さんのブログを拝見しそう感じました)
どんな花が咲くかわからないままタネを撒いて、みんなでアイデアを出し合い養分や水をやり、企画が芽吹き、大きな木に育っていき、舞台と言う名の花を咲かせる瞬間をこの目で見ることができて幸せでした。
まだ千穐楽の配信買えますので、気になった方はぜひ買ってみてください。配信はハードルが高い人はブログの上にリンクを張った「キカクのタネ」を見てみてください。
最後まで読んでくださってありがとうございました。
※もっと考察したいけど時間がないから一旦この状況でアップします(8/23一部修正)
(余談)
最近の吉谷さんが演出した舞台の配信を全部買ってたら「クレカ不正利用」が疑われてクレカ止められたよw